浅草・観音裏にあるイタリアンレストラン「nacol(ナコル)」へ、7月に再訪しました。
生ハムを主役に、季節の魚介や野菜、肉料理、パスタを組み込んだおまかせコースを楽しめるお店です。
店内はカウンター8席のみ。大きなスライサーで生ハムを切り出す様子や、ニョッコフリット、パスタが仕上がっていく様子を近くで眺められます。
前回は21ヶ月熟成のジャンボン・オーヴェルニュをはじめ、複数の生ハムと冬の食材を使ったコースをいただきました。
今回は30ヶ月、60ヶ月と長期熟成の生ハムに、桃やメロン、茄子、パイナップルなどの夏らしい食材を合わせた構成です。

生ハムを主役に据えた、カウンター8席のイタリアン
nacolは、オーナーシェフの家亀智裕さんが2024年4月に開いたお店です。
21歳で独立し、新橋・蒲田と店を移しながら、イタリア・モデナでの修業を経て生ハムにたどり着きました。
浅草寺の裏手、いわゆる観音裏の静かな通り沿い。
11坪・カウンター8席という小さなお店ですが、開店から半年ほどで飲食業界誌に取り上げられ、いまは予約が取りづらいお店として知られています。
生ハムはHOBART社のスライサーと、特注のBerkel社のスライサーで切り分けられます。
厚みはおよそ0.05mm。手にとると向こう側が透けるほどの薄さです。
季節のおまかせコース
季節のおまかせコースは14,000円(税込)。別途サービス料10%となります。
生ハムそのものを食べ比べるだけでなく、温かなブリオッシュやニョッコフリット、炊きたてのご飯と合わせることで、脂の溶け方や香りの変化まで楽しめる内容です。
縞鯵、マカダミアナッツ、ディル
愛媛県産の縞鯵を塩締めにし、ディルとともにタルタル仕立てに。
下にはマカダミアナッツのソースと、バルサミコソースが敷かれています。
塩締めによって引き出された縞鯵の旨味に、マカダミアナッツのまろやかなコク。ディルの爽やかな香りが重なります。
バルサミコの酸味が全体を引き締め、脂のある縞鯵をすっきりと味わえる一皿です。
上にはキャビアがひとさじ。塩気が加わることで、ひと口目から輪郭がはっきりします。
伝助穴子、フィレンツェ茄子、グアンチャーレ
長崎県産の伝助穴子をフリットにし、グアンチャーレを重ねて。
下には京都産フィレンツェ茄子のピュレ、さらに焼き茄子が添えられています。
衣は軽く、穴子の身はふっくら。そこへ豚頬肉から作られるグアンチャーレの塩気と脂の旨味が加わります。
フィレンツェ茄子のピュレはなめらかで、焼き茄子からは香ばしさも。
フィレンツェ茄子は、トスカーナに古くからある「ヴィオレッタ・ディ・フィレンツェ」という丸茄子。
種が少なく果肉がやわらかいため、火を入れるとピュレになめらかさが出ます。
フランス産ジャンボン・オーヴェルニュ30ヶ月熟成、発酵バター、ブリオッシュ
一般的な熟成期間を超え、生産者に特別に仕立ててもらったという30ヶ月熟成のジャンボン・オーヴェルニュ。
前回いただいたものは21ヶ月熟成でしたが、今回はさらに長く熟成されています。
温かなブリオッシュに発酵バターのエシレバターを塗り、削りたての生ハムを重ねて。
ブリオッシュの熱で生ハムの脂がゆっくりと溶け出し、熟成による旨味や塩気がパンになじんでいきます。
発酵バターのコクと生ハムの脂、ほんのり甘いブリオッシュ。nacolらしさを最も感じる組み合わせです。
このブリオッシュは、東日本橋のベーカリー「ビーバーブレッド」への特注品だそうです。
イベリコ・ベジョータ60ヶ月熟成、ふくどめ小牧場プロシュート24ヶ月熟成
写真右は、スペイン産イベリコ・ベジョータ60ヶ月熟成。
左は、鹿児島県・ふくどめ小牧場のプロシュート24ヶ月熟成です。
60ヶ月熟成のイベリコ・ベジョータは、凝縮された旨味と長く続く余韻が印象的。
一方の国産プロシュートには、繊細な塩気とやわらかな風味があります。
産地や熟成期間による違いを食べ比べられるのも楽しいです。
ふくどめ小牧場は、鹿児島県鹿屋市で「幸福豚」と、日本ではここだけが飼育しているという「サドルバック」という品種を育てている生産者。
その豚から作られる生ハムが、スペインの60ヶ月熟成と並んで出てきます。
出来立てニョッコフリット
生ハムには、揚げたてのニョッコフリットを合わせて。
中が空洞になった熱々の生地に生ハムをのせると、余熱で脂がじんわりと溶けていきます。
軽くふっくらとした生地と、薄く削られた生ハムの口溶け。シンプルですが、出来立てだからこその美味しさが伝わる組み合わせです。
朝仕込みリコッタ、桃、メロン
さらに、その日の朝に仕込んだリコッタチーズと、季節の桃とメロンを添えて。
みずみずしく甘いフルーツに、フレッシュでミルキーなリコッタチーズがよく合います。
熟成生ハムのしっかりとした旨味の合間にいただくと、口の中が軽やかに切り替わります。
ライ麦パン、ラルド
焼いたライ麦パンに、ラルドをのせて。
ラルドは豚の背脂を塩漬けにしたもので、これも生ハムと同じように薄く削られています。
パンの熱で脂が透きとおり、ふちのほうからゆっくりとほどけていきます。
生ハムとはまた違う、脂そのものの甘みと塩気。ライ麦の香ばしさと酸味が、脂の重さを受け止めてくれます。
ジャンボン・オーヴェルニュ30ヶ月熟成、炊きたて雪椿、久保井さんの海苔
魚沼産コシヒカリ「雪椿」の炊きたてご飯に、フランス産ジャンボン・オーヴェルニュ30ヶ月熟成をのせて。
最後は久保井さんの海苔で巻いていただきます。
温かなご飯によって生ハムの脂がやわらかくなり、塩気と旨味がご飯に広がります。海苔の香りが加わると、洋の生ハムが不思議なほど白米になじみます。
お米の炊き加減はだいぶ柔らかだったのですが、私は普通の炊き加減が好みかなと感じました。
お米そのものの甘みと、生ハムの旨味を素直に感じられる組み合わせです。
「雪椿」は、新潟県津南町でつくられている特別栽培のコシヒカリ。
コシヒカリ全体の0.007%しかないという希少なお米で、米・食味国際コンクールで5年連続の金賞を受けています。
東京ビーフ イチボ
メインは、東京育ちの希少な黒毛和牛「東京ビーフ」のイチボ。
年間出荷数が数十頭と少なく、「幻の黒毛和牛」とも呼ばれています。
赤身の旨味がしっかりとしていながら、脂にはやわらかな甘みがあります。まずはそのまま、途中から生姜と粒マスタードを添えて。
生姜は後味を軽くし、粒マスタードの穏やかな酸味は肉の濃さを引き立てます。
沖縄・玉城忠男さんの「タダオゴールド」
肉料理のあとには、沖縄県産のパイナップル「タダオゴールド」。
玉城忠男さんが育てるゴールドバレルの中から選ばれる、希少なパイナップルです。
果肉はやわらかく、甘みが濃いのが印象的。酸味は穏やかで、芯の部分までみずみずしく味わえます。
ゴールドバレルは国産パイナップルの1%ほどしか採れない品種で、一般的なパインが2年に1回収穫できるのに対し、3〜4年に1回しか収穫できないそうです。
玉城さんは沖縄本島北部の東村で、40年以上パイナップルを育てている生産者です。
イカ墨のタリアテッレ
アオリイカとスミイカを使った、イカ墨のタリアテッレ。
幅のある麺にイカ墨のソースがしっかりと絡み、墨の濃厚なコクと烏賊の甘みが広がります。
見た目は力強いですが、烏賊の旨味を中心にまとめられていて、重たさを感じずに食べ進められました。
トマトソースのスパゲッティ
もう一品は、トマトとケッパーなどを使ったスパゲッティ。
トマトの甘みと酸味にケッパーの塩気が加わった、プッタネスカを思わせる味わいです。
濃厚なイカ墨のタリアテッレとは対照的に、トマトの甘みと明るい酸味が引き立つ一皿でした。
nacolのピスタチオジェラート
デザートは、ピスタチオ好きの家亀シェフが作るピスタチオジェラート。
なめらかな口当たりと、ピスタチオの濃厚な味わい。ひと口目から香ばしい風味がしっかりと広がります。
生ハムから始まる充実したコースを、最後までnacolらしい濃さで締めくくるデザートです。
最後はお茶と小菓子。ここまでが季節のおまかせコースです。
ワインと日本酒のペアリング
nacolのペアリングは、イタリアワインを中心に日本酒も混ざる構成です。
この日は8種類。フランチャコルタで始まり、シチリア、ピエモンテ、エミリア、フリウリと産地が移っていきます。
1杯目はフランチャコルタの「モンテ・ロッサ プリマ・キュヴェ ブリュット」。
シャルドネを主体に24ヶ月瓶内熟成させたもので、細かい泡と厚みが、いきなり生ハムの脂を受け止めてくれます。
2杯目はシチリアの「SRC エトナ・ロッソ 2021」。
エトナ山の北斜面、標高650〜1000mに残る樹齢50〜120年の古木から造られる赤で、主体はネレッロ・マスカレーゼ。火山灰土壌らしい、澄んだ酸のある味わいです。
白はピエモンテの「ラ・スピネッタ デルトーナ コッリ・トルトネージ ティモラッソ」。
ティモラッソは一度は消えかけたピエモンテの土着品種です。ラベルのサイはデューラーの版画で、ラ・スピネッタの目印。
生ハムが続くところで出てきたのが、エミリアの「アンティカ・コルテ・パラヴィチーナ フォルターナ・デル・タロ」。
アルコール6度ほどの、わずかに甘みのある微発泡の赤です。
アンティカ・コルテ・パラヴィチーナは、世界でもっとも古いクラテッロの熟成庫を持つとされるスピガローリ家の館。
生ハムの造り手が手がけるワインが生ハムの皿に合わせて出てくるのは、いわれてみれば理にかなっています。
途中で1本だけ日本酒が入ります。秋田・金紋秋田酒造の「X3 Black」。
日本酒では珍しい黒麹を使い、麹米を通常の3倍使って仕込んだ純米原酒です。アルコールは14度と軽めですが、酸と米の旨味がはっきりしていて、ワインの流れの中に置かれても浮きません。
肉料理に向かうところで、同じくラ・スピネッタの「バルバレスコ ボルディーニ 2019」。
ネッビオーロの香りと渋みが、東京ビーフの赤身と重なります。
そしてフリウリの「ラディコン」。
オレンジワインの代表格として知られる造り手で、果皮と一緒に長く漬け込むことでこの琥珀色になります。イカ墨のパスタのあたりで、色の濃さが料理と釣り合っていました。
締めくくりはシチリアの「バダルッコ・デ・ラ・イグレシア・ガルシア XI ペルペトゥーム」。
イギリス人がマルサラに酒精強化を持ち込む前からあったという「ペルペトゥオ」という造り方で、古い酒に若い酒を継ぎ足しながら育てていくものだそうです。ラベルにも「PRE-BRITISH」と書かれています。
この日いただいた8杯を、出てきた順に並べておきます。
この日いただいた8杯
出てきた順に並べています。同じ銘柄が手に入らないこともありますが、造り手や産地の目星をつける手がかりにどうぞ。
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1
モンテ・ロッサ プリマ・キュヴェ ブリュット
シャルドネ主体を24ヶ月瓶内熟成。1杯目に
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2
SRC エトナ・ロッソ 2021
エトナ北斜面の古木から。ネレッロ・マスカレーゼ主体
エトナの赤を探す
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3
ラ・スピネッタ デルトーナ コッリ・トルトネージ ティモラッソ
ピエモンテの土着品種ティモラッソ。ラベルはデューラーのサイ
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4
アンティカ・コルテ・パラヴィチーナ フォルターナ・デル・タロ
クラテッロの造り手が手がける、アルコール6度ほどの軽い赤
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5
金紋秋田酒造 X3 Black
黒麹づかい、麹米は通常の3倍。アルコール14度
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6
ラ・スピネッタ バルバレスコ ボルディーニ 2019
ネッビオーロ。肉料理に合わせて
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7
ラディコン
オスラーヴィアの造り手。長い果皮浸漬で琥珀色に
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8
バダルッコ・デ・ラ・イグレシア・ガルシア XI ペルペトゥーム
古い酒に若い酒を継ぎ足す「ペルペトゥオ」。グリッロ種
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お店情報
| 店名 | nacol(ナコル) |
| ジャンル | イタリアン |
| 住所 | 東京都台東区浅草3-28-9 サイドプレイス 1F |
| アクセス | つくばエクスプレス「浅草」駅から徒歩10分 |
| 電話 | 03-6802-3898 |
| 営業時間 | 火〜金 17:00〜23:00/土・日・祝 12:00〜14:00、17:00〜23:00 |
| 定休日 | 月曜(祝日の場合は翌火曜) |
| 席数 | カウンター8席 |
| 予算の目安 | コース14,000円+サービス料10%(ペアリング別) |
| 予約 | 完全予約制(OMAKASE) |
| 支払い | カード可(VISA・Master・JCB・AMEX・Diners)、QRコード決済可(PayPay・d払い)/電子マネー不可 |
| 駐車場 | なし |
| オープン | 2024年4月3日 |
行く前に知っておきたいこと
- 完全予約制で、予約はOMAKASEから。人気店なので、枠が出るタイミングを狙って押さえるのが確実です
- カウンター8席だけ。シェフの手元がそのまま見えるので、カウンターの臨場感を楽しみたい方に向いています
- コースは季節のおまかせ1本。生ハムの種類も、合わせる食材も、訪れる時期で変わります
- 料金はコース14,000円に加えてサービス料10%。ペアリングを付ける場合はさらに別途です
- ペアリングにはワインだけでなく日本酒も入ります。ワインに寄せすぎない構成なので、日本酒党の方でも楽しめます
- 月曜が定休。土日祝は12時からの昼の部もあります
- 浅草駅から徒歩10分ほど。観音裏の静かな通り沿いで、駐車場はありません
nacol まとめ
前回と同じブリオッシュや雪椿との組み合わせも、生ハムの熟成期間や合わせる食材が変わることで、また違った印象になっていました。
出来立てのニョッコフリットや温かなご飯にのせ、熱で脂がほどけていく瞬間を味わえるのもnacolならでは。
今回は桃やメロン、茄子、タダオゴールドなど夏の食材が多く、生ハムの濃い旨味との対比も楽しめました。
生ハムへのこだわりは変わらず、その楽しませ方は訪れるたびに少しずつ変わっていく。再訪するからこそ、その違いまで面白く感じられるコースでした。







