有馬 槻|築150年の蔵で味わう、1日2組限定の京料理@神奈川・鷺沼

川崎市宮前区有馬にある日本料理店「有馬 槻(つき)」へ。
東急田園都市線・鷺沼駅から歩いて10分ほど、静かな住宅街の中にあります。
通りからは店の全容がほとんど見えません。

小さく掲げられた「槻」の文字を頼りに敷地へ入り、木々に囲まれた小径を進むと、庭の奥に蔵を改修した建物があります。

檜の一枚板のカウンターと、間接照明に照らされた木目の壁。まな板と包丁、小さな花入れが置かれている
檜の一枚板のカウンター。席は6つだけです

いただけるのは、京都で長年腕を磨いた料理人によるおまかせの京料理。
敷地内の畑で朝に収穫した野菜も随所に使われます。
その土地で育ったものと季節の魚介を組み合わせたコースです。

目次

築150年の蔵を改修した日本料理店

「有馬 槻」があるのは、江戸後期から続く地主の庭と土蔵が残る敷地です。
木々に囲まれた築150年の蔵を改修してこの店になりました。
開店は2023年11月10日。

もともとあった庭や建物を残しながら、かつての有馬の景色を思わせる場所へ整えられています。
果物倉庫には庭を見渡せる小部屋も増設されました。
この再生はテレビ東京「風景の足跡」の2025年5月2日放送回でも紹介されています。

店内にあるのは、檜の一枚板を使った6席のカウンターだけ。
梁やカウンターの前には、なぐり加工をした杉皮が使われています。
古い蔵の重厚さと、新しい木の温かさが同じ空間にあります。

営業は1日2組限定。
カウンター越しには料理人の手元がよく見えます。
包丁を入れる音や、椀に出汁を注ぐ様子を眺めながら料理を待つことができます。

京都で腕を磨いた料理人によるおまかせ

白い調理服と帽子の料理人が、カウンターの上の金色の鍋で肉をしゃぶしゃぶしているところ
仕上げはカウンターの上で。手元がよく見えます

料理を手がけるのは京都出身の大将。
和食一筋に歩み、京都の料亭や料理旅館で約28年、経験を重ねてきたそうです。
お店は大将と女将さんを中心に切り盛りされています。

掲げているのは「京料理×畑の野趣」。
伝統を受け継ぎながら、形式にとらわれない工夫を加えています。

奇抜さを狙ったものではなく、出汁と旬の食材が土台にあります。
客数を絞っているので、料理の説明を聞いたり食材の話をしたりしながら、穏やかなペースで進みました。

庭で育てた朝採れ野菜

皮をむきかけた朝採れのとうもろこし。粒が黄色く詰まっている
この日の朝、敷地内の畑で採れたとうもろこし

有馬 槻の料理を特徴づけているのが、敷地内の畑で育てた野菜です。
料理人自らが土づくりから行い、その日に使う野菜を毎日収穫しています。

畑仕事は一年を通して続きます。
春は堆肥を入れて土を作り、夏は夏野菜を収穫。
秋は大きなケヤキの落ち葉で堆肥を作り、冬は冬野菜を収穫する、という具合です。

今回のコースにもトマト、とうもろこし、ピーマン、新玉葱が登場しました。
特別な野菜を遠方から集めるのではなく、カウンターのすぐ外にある畑から料理へ。
新鮮で安心の野菜がいただけるのが嬉しいです。

7月のおまかせコース

今回は7月の訪問。
鱧や甘鯛、とうもろこし、トマトなど、夏の食材を取り入れた全11品のコースです。

毛蟹と朝採れトマトの玉締め

黒い器に大きな梶の葉をかぶせて出された一品。漆の盆にのっている
梶の葉をかぶせて登場します

コースの始まりは、梶の葉をあしらった毛蟹の玉締め。
梶の葉は七夕に歌を書いて供えた植物で、7月らしい設えです。
中には、敷地内の畑で収穫したトマトも使われています。

藍色の器に盛られた毛蟹の玉締め。卵地とジュレ、トマトが見える
葉を外すとこの姿。毛蟹とトマトが入っています

毛蟹の甘みと旨味を、なめらかな卵地がやさしく包みます。
そこへトマトの瑞々しさと酸味、ジュレの爽やかさが加わり軽やかに。
畑のものが、1品目から出てきます。

メイタガレイと蛸のお造り

染付の大皿に盛られたメイタガレイと蛸のお造り。花穂紫蘇と山葵を添えて
お造りは染付の皿で。醤油と梅肉が添えられます

お造りは、メイタガレイと蛸。
メイタガレイは両目のあいだに棘があることが名の由来といわれる小ぶりのカレイで、夏が旬です。

メイタガレイの薄造りと、白く巻いた蛸の薄切り。上に花穂紫蘇がのっている
薄く引かれたメイタガレイと、白い蛸

身は淡泊でありながら適度な弾力があり、噛むうちに白身のほのかな甘みが現れます。
蛸は梅をつけていただきます。心地よい歯応えがあり、噛むほどに旨味が広がります。

鱧、木耳、蕪のお椀

黒い椀に澄んだ出汁。白く開いた鱧、黒い木耳、白い蕪が入っている
骨切りした鱧が、椀の中で白く開いています

夏の京料理に欠かせない鱧を使ったお椀。
鱧は細い骨が身の中に複雑に入っているため、皮一枚を残して包丁を入れる骨切りが必要になります。
一寸(約3cm)のあいだに24〜26回ともいわれる細かさです。

丁寧に骨切りされた鱧はふっくらとしており、繊細な身に出汁が静かに染みています。
蕪のやさしい甘みに、木耳の小気味よい歯触りがアクセント。
澄んだ出汁を味わったあとに、それぞれの食感が順番に現れます。

焼き霜仕立ての鱧の押し鮨

色絵の皿にのせた鱧の押し鮨2切れ。白く細かくほぐれた鱧の身が酢飯をおおい、赤い点がひとつずつのっている
同じ鱧を、今度は押し鮨で

続いても鱧ですが、今度は焼き霜仕立ての押し鮨に。
表面を炙ることで香ばしさが加わり、お椀とは違う表情になります。

押し鮨にすることで鱧と酢飯がしっかりとなじみ、炙った皮目の香りが後まで残ります。
同じ鱧でも、出汁で味わうお椀と、レアで香ばしさを前に出した押し鮨では印象が大きく変わりました。

ミスジのしゃぶしゃぶ、茄子、胡麻だれ

青磁の器に、しゃぶしゃぶしたミスジと胡麻だれ、皮をむいた茄子。黒胡椒がふられている
ミスジに胡麻だれ、茄子を合わせて

薄く火を入れたミスジに、茄子と胡麻だれを合わせた一品。
ミスジは牛の肩甲骨の裏側にある部位で、1頭から2〜3kgしか取れない希少部位といわれます。

しっとりと柔らかく、脂には穏やかな甘みがあります。
胡麻だれのコクが肉を受け止めながら、茄子にも出汁と肉の旨味が染みています。
魚料理が続いたあとに、肉と胡麻の力強さが加わりました。

甘鯛の若狭焼き、うすい豆の餡

白い皿にのせた甘鯛の若狭焼きと、鮮やかな緑色のうすい豆の餡
鱗ごと焼いた甘鯛に、うすい豆の餡

甘鯛は、鱗を付けたまま焼き上げる若狭焼きに。
若狭焼きは若狭ぐじで知られる焼き物で、鱗が狐色になるまで焼くと鱗ごと食べられます。
鱗は香ばしく、身はふっくら。ひと口で食感が変わります。

白身には甘みがあり、噛むほどに上品な脂が広がります。
添えられたうすい豆の餡は、豆のやさしい甘みと鮮やかな緑がきれい。
香ばしい甘鯛に柔らかな餡が加わって、穏やかな味わいにまとまります。

朝採れとうもろこしのとうもろこし和え

白い菊形の小鉢に盛られた、とうもろこしの粒をとうもろこしのペーストで和えた一品
とうもろこしを、とうもろこしで和えて

敷地内の畑で、その日の朝に収穫したとうもろこし。
そのとうもろこしを、さらにピューレ状にしたとうもろこしで和えた一品です。
要素を増やすのではなく、ひとつの食材を違う状態で合わせています。

粒の瑞々しさと弾ける食感を残しながら、濃く仕立てた甘みが重なります。
採れたてだからこその香りと甘みを、まっすぐ味わえました。

ヒレ肉、新玉葱の醤油漬け

幾何学模様の皿にのせたヒレ肉3切れ。上に新玉葱の醤油漬けと花穂紫蘇がのっている
ヒレ肉に、庭で採れた新玉葱の醤油漬けを

焼いたヒレ肉には、庭で採れた新玉葱の醤油漬けを添えて。
肉は柔らかく、きめの細かな口当たり。脂の重さは控えめで、赤身の旨味を落ち着いて味わえます。

新玉葱はシャキシャキとした食感を残しています。
醤油の塩気と瑞々しい甘みが、肉によく合いました。

トマトラーメン

白い器に澄んだスープと細麺、トマトのスライス、鮑、いんげんが入ったラーメン
鮑の入ったトマトラーメン

鮑が入った贅沢なトマトラーメン。
トマトの酸味と旨味を生かしたスープは、肉料理のあとでもスッキリといただける味わいです。
和食の流れからは少し意外に思える一品ですが、とても丁寧な仕立てでお出汁も素晴らしかったです。

京都府産「京式部」の白米

土鍋いっぱいに炊き上がった白米を、料理人が両手で持って見せているところ
炊きたての「京式部」を土鍋ごと

ご飯は、京都府のオリジナル米「京式部」。
京料理人やお米マイスターによる食味評価試験を重ねて選ばれた品種で、2020年に発表されました。
名前は『源氏物語』の作者・紫式部にちなんでいます。

黒い椀によそった白米と、ピーマンとシラスの小鉢、胡瓜と茄子の香の物
白米に、ピーマンとシラス、香の物

炊きたてのご飯は粒が大きく、一粒ずつがはっきりしています。
まずは白米そのものを味わうと、甘みが存分に楽しめます。幸せの瞬間。

黒い椀によそった炊きたての白米。粒が大きく立っている
粒が大きく、一粒ずつがはっきりしています
染付の小鉢に盛られた、細切りのピーマンとシラスの和え物
畑のピーマンとシラス。ご飯が進みます

その後は、敷地内で採れたピーマンとシラスや、お漬物と共に。
ピーマンの青々しい香りと軽い苦味、シラスの塩気が加わります。

亀廣永「したたり」

銀色の皿にのせた琥珀色の寒天菓子「したたり」。竹の菓子切りが添えられている
甘味は京都・亀廣永の「したたり」

甘味は、京都の和菓子店「亀廣永」の代表銘菓「したたり」。
黒糖やざらめ、和三盆を使った琥珀羹で、透き通った色がきれいです。

したたりは1971年、祇園祭・菊水鉾の茶席のために作られた菓子。
菊水鉾は、菊の露を飲んだ少年が長寿を得たという故事にちなむ山鉾です。
菓子の名も、菊の葉からしたたる露のイメージから付けられました。

現在は通年で販売されていますが、祇園祭が行われる7月にいただくと背景まで近く感じます。
口当たりはつるんとしており、寒天らしい涼やかさのあとに黒糖の深い甘みが広がりました。

お抹茶

ぽってりとした器に点てられたお抹茶。鮮やかな緑色をしている
最後はお抹茶で

最後のお抹茶は、大将がその場で点てます。
茶道にも精通していて、湯の温度から茶筅の運びまで淀みがありません。
カウンターなので、その手元もよく見えます。

最後にお抹茶を点てていただくと背筋が伸びる気持ちになりますが、自由にお抹茶や器を楽しんでください、というスタンス。
飲み方なども優しく教えていただき、リラックスして過ごすことができました。

そもそも日本料理の懐石は、茶事で薄茶や濃茶を出す前の食事として始まったもの。
菓子のあとに茶が来る流れは、本来の順番に戻ったとも言えます。
したたりの黒糖の甘みが、抹茶のほろ苦さできれいに切れました。

ふるさと納税の返礼品でも行けます

今回は、川崎市のふるさと納税の返礼品を使って訪問しました。
「川崎の隠れ家で味わう 日本料理 ペア食事券」という名前で、寄付金額は147,000円。
2名分の食事券です。

返礼品で行く場合は、来店希望日の2か月前から3日前までに電話(044-863-8288)で予約します。
ネット予約ではないので、そこだけ注意してください。

取り扱いはふるなびとふるさとチョイス。
人気の返礼品で品切れになっていることもあるので、申し込めるかは各サイトで確認してください。

お店情報

店名 有馬 槻(ありま つき)
ジャンル 日本料理、京料理
住所 神奈川県川崎市宮前区有馬8-24-9
アクセス 東急田園都市線「鷺沼」駅から徒歩10分(約760m)/横浜市営地下鉄ブルーライン「中川」駅から車で5分
電話 044-863-8288
営業時間 11:30〜15:00/17:00〜21:00(入店は11:30〜12:30、17:00〜18:30)※媒体により記載が異なるため予約時に確認を
定休日 不定休
席数 6席(カウンターのみ・個室なし)/1日2組限定
コース おまかせコース全11品 24,200円(料理20,000円+サービス料10%+消費税)
予約 完全予約制・2〜6名(公式予約ページ・一休.comレストラン・食べログのネット予約)
支払い カード可(VISA・Master・JCB・AMEX・Diners ほか)/電子マネー不可
駐車場 1台分あり(予約時に要連絡)/全席禁煙
オープン 2023年11月10日

行く前に知っておきたいこと

  • 完全予約制・1日2組限定、予約は2〜6名。カウンター6席だけなので、予約は早めに。ネット予約はいずれの経路も2名からで、ひとり分の枠はありません
  • 予約は公式予約ページ、一休.comレストラン、食べログのネット予約から。電話(044-863-8288)でも受け付けています
  • コースは24,200円の1本だけ。料理20,000円にサービス料10%と消費税が加わった総額です
  • 入店時間が決まっています。昼は11:30〜12:30、夜は17:00〜18:30。遅れるとコースの一部が出せない場合があります
  • 前日・当日のキャンセルや減員は料理代金100%。一休.comレストラン経由の予約は3日前00:00から50%のキャンセル料がかかります。人数が変わりそうなときは早めに連絡を
  • 広い範囲のアレルギーや苦手食材があると、予約を断られる場合があります。予約時に相談してください
  • お子様は中学生以上から。ペットの同伴はできません
  • 駐車場は1台分だけ。使うときは予約時に伝えておく必要があります
  • 川崎市のふるさと納税の返礼品でも行けます。その場合は電話予約のみで、来店の2か月前から3日前までに連絡が必要です

有馬 槻 まとめ

都会には無い、抜群の雰囲気で丁寧な京料理。

築約150年の蔵、受け継がれてきた庭、敷地内の畑。
庭で育てたトマトやとうもろこし、ピーマンなど、さまざまな野菜が楽しめます。

料理は京料理の技術が軸ですが、とうもろこし和えやトマトラーメンのように、この場所ならではの品も出てきます。
古い蔵を眺めるだけでなく、庭や畑を含めた環境ごと味わうようなコースでした。

1日2組だけという静かな営業の仕方も贅沢。
街なかの店とは時間の流れが違う場所で、夏の京料理をゆっくり味わうことができました。

 

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この記事を書いた人

センスのいい店と、美味しい時間。東京を中心に、静岡・関西まで1,000軒以上を訪ね歩いています。掲載しているお店は、すべて自分が訪問し、撮影したものです。おいしかったものは、おいしかったと。好みと違ったものは、そう書きます。

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