軽井沢・追分に店を構える「Restaurant Naz(レストラン ナズ)」。
軽井沢や信州の食材を中心に、発酵や熟成といった技法を取り入れた独創的な料理を楽しめるイノベーティブレストランです。
The Tabelog Awardでは2023年のSilver・Best New Entryを皮切りに高い評価を受け、現在は「The Tabelog Award 2026 Gold」を受賞。
以前の店舗から移転し、2025年6月に現在の場所で新たなスタートを切りました。
料理をいただいて特に印象に残るのが「香り」。
発酵や熟成、燻製などを使いながら、単純に旨味を強くするのではなく、食材が本来持っている香りに別の香りを重ねていく。
一皿にいくつもの要素が入っているのに、口の中でぶつかりません。ひとつの香りが次の香りへ受け渡されていくような食べ心地です。
軽井沢を代表するイノベーティブレストラン「Restaurant Naz」
移転先は、以前の店舗から150mほど離れた場所に建てられた新しい建物。
木や石、左官仕上げの壁といった自然の素材でまとめられていて、入り口から続く廊下は洞窟のような造りになっています。
客席は6〜8名用と2〜4名用の2部屋のみで、1日2組の完全予約制。
ほかのお客さんと同席することがないので、最初から最後まで静かに食事に集中できます。
発酵を自在に操る鈴木夏暉シェフ
Restaurant Nazを手掛けるのは鈴木夏暉シェフ。
北欧での経験を通して発酵技術を学び、軽井沢の食材と組み合わせながら独自の料理へと発展させています。
長野県佐久市の出身で、16歳から料理の道へ。
地元のピッツェリアで4年間働いたのちイタリアへ渡り、ナポリの名店を経て、デンマークの「noma」で修業しています。発酵の技術はここで身につけたもの。
帰国後の2020年9月、軽井沢で最初のRestaurant Nazを開きました。
Nazの料理には、発酵させた野菜や果物、自家製の調味料などが頻繁に登場します。
ただ、「発酵料理を食べている」という印象が前面に出るわけではありません。
酸味を加えたり、香りに奥行きを出したり、食材同士をつなげたり。
発酵をひとつの調理技術として自然に使っているところが面白く、食べ進めるほど料理の組み立てに引き込まれていきます。
Restaurant Naz おまかせコース
コースは「季節のおまかせ」の一本で、64,900円(税込)。
10〜12品と、ワインまたはノンアルコールのペアリング9杯前後が含まれた料金です。
今回いただいたのは、秋の食材を中心としたおまかせコース。
すっぽんや猪、信州サーモン、めぐみ鴨といった食材に、香茸、牛蒡、どんぐり、ビーツ、山葡萄など、森や土を連想させる食材が随所に登場しました。
すっぽんと香茸のスープ
テーマは「土の香り」。
嬬恋のすっぽんから取った出汁に香茸と生姜を合わせ、発酵させた牛蒡と蓮根、里芋の揚げニョッキを添えています。
口に含んだ瞬間、まず広がるのが香茸の力強い香り。
そこにすっぽんの旨味が重なり、生姜の清涼感が後味を整えます。
発酵野菜と里芋のニョッキを一緒にいただくと、土を思わせる香りとほのかな酸味が加わり、さらに奥行きのある味わいに。
コースの世界観へ一気に引き込まれる一皿でした。
長野パープル
薄くスライスした長野パープルに、南イタリアのフレッシュチーズ、焼き茄子、発酵プルーン、クローブオイルを合わせて。
葡萄をここまで薄くスライスしていただくのは初めて。
皮や果肉まで一体となった瑞々しい甘酸っぱさに、焼き茄子の香ばしさとクローブの香りが重なります。
そこをフレッシュチーズのまろやかなコクと酸味が受け止めます。
葡萄の甘さは最後まで残るのに、果物ではなく一皿の料理として食べられました。長野パープルの新しい一面を楽しめる一皿でした。
どんぐりと猪のラビオリ
今回、特に印象に残った一品。
どんぐりを渋皮ごと挽いた粉を練り込んだラビオリの中には、マルサラ酒で煮込んだ猪のバラ肉と平飼い卵の卵黄。
さらに自家製の1年熟成ポルチーニのソースと、焼いたどんぐりのパウダーを合わせています。
口に入れるとポルチーニの熟成香、猪の濃厚な旨味、どんぐりの香ばしさとほろ苦さが一気に広がります。
かなり力強い組み合わせですが、熟成による酸味が入ることで重たくなりすぎない。
噛むほどに味が混ざり合い、秋の森をそのまま料理にしたような深みのある味わいでした。
自家製フォカッチャ
途中には自家製のフォカッチャ。
香りの強い料理が続く中で、シンプルなパンが良い箸休めになります。
ソースまで残さず味わいたくなる料理が多いので、つい手が伸びてしまいました。
信州サーモン
Nazを代表する食材のひとつ、信州サーモン。
長野県水産試験場が10年ほどかけて開発した養殖品種で、ニジマスとブラウントラウトをかけ合わせた一代限りの魚。卵を持たないぶん身に栄養が回るといわれています。
この日は2皿。まずは生のまま寝かせたものから出てきました。
1皿目:3年熟成の奈良漬と
1か月寝かせた生のサーモンに、3年熟成させた奈良漬を重ねたひと口。
琥珀色になるまで漬け込まれた奈良漬は、酒粕の甘い香りと塩気が濃く、それ自体が調味料のよう。
寝かせて旨味の増したサーモンの脂に、その甘みと香りが乗ります。
2皿目:牧草で焼いて、発酵蕪と
2皿目は火を入れたもの。
八千穂で育ったサーモンを熟成させ、40〜42度ほどの低温でゆっくり加熱。さらに牧草で焼いて香りをまとわせ、やわらかな中心部分を使用しています。
周囲には発酵させた蕪を添え、発酵トマトや青紫蘇などを使ったソースとともに。
サーモンは驚くほどしっとりとしていて、スモークサーモンにも似た香りがありながら瑞々しさもしっかり残っています。
発酵由来の酸味と青紫蘇の爽やかな香りが脂の旨味を軽やかにしてくれるので、余韻まで心地よい一品でした。
ビーツ
ビーツをここまで突き詰めるのか、と驚いた一皿。
丸ごと加熱して燻製したビーツを真空にかけ、90度の熱風で約5時間乾燥。さらにビーツシロップとバターで炊き、再び乾燥させたものをビーツジュースで戻すという、とても手の込んだ仕立てです。
そこに生胡桃のアイス、切り干しビーツ、焼いたアニスシードを合わせています。
何度も手を加えられたビーツは、甘みも旨味も香りもぎゅっと濃縮。
生胡桃のアイスが溶けるにつれてナッツのコクが重なり、ビーツ特有の土っぽい香りとよく合います。
アニスのほのかな清涼感もアクセントになり、一つの野菜からここまで複雑な味を作れることに驚きました。
ハヤの揚げ焼きと牛蒡のおやき
高温で揚げたハヤと牛蒡のきんぴらを、やわらかなおやきの生地で包んだ一品。
新米のソースと、若い木の芽を合わせています。
噛むとハヤの旨味に牛蒡の土っぽい香りとピリッとした辛味が重なり、最後に木の芽が爽やかに抜けていきます。
長野らしい「おやき」をそのまま出すのではなく、Nazの料理として作り変えているのが面白い。素朴な見た目のわりに、ひと口の情報量が多い一品でした。
めぐみ鴨の炭火焼き
メインは、鳥市のめぐみ鴨。
昆布締めにした合鴨を炭火で焼き上げ、山葡萄と黒ニンニクのソース、黒胡椒を合わせています。
ぷるんと弾力のある身はとても瑞々しく、噛むほどに鴨の旨味がじわっと広がります。
そこに炭の香ばしさと黒ニンニクのコク、山葡萄の酸味。鴨自体の味わいはしっかり感じさせながら、ソースによって輪郭がぐっと鮮明になります。
力強さはありつつ重たさを残さない、メインらしい一皿でした。
シナノユキマスの棒鮨
食事はシナノユキマスの棒鮨。
20日間ドライエージングしたシナノユキマスを昆布と酢で締め、皮目を炙って仕上げています。合わせるシャリには軽井沢のコシヒカリ・五郎兵衛米と自家製の柿酢を使用。
さらに干した塩トマト、燻製大根、炒り胡麻、紫蘇を挟み、最後に牧草で燻して香りをまとわせています。
シナノユキマスは、長野県が1975年に旧チェコスロバキアから卵を導入して育て方を確立した魚。
鮭や鱒に近い仲間ですが、淡水のまま育つぶん身は白く、味はずっと繊細です。
シナノユキマスのきれいな旨味に、柿酢のまろやかな酸味。
そこへ胡麻や紫蘇、燻製大根の香りと食感が加わり、ひと口の中で酸味・香り・食感が順番に出てきます。
イノベーティブな料理が続いた最後に「鮨」という馴染みのある形で締めるのも印象的でした。
イチジクのアイス
デザートはイチジクのアイスに、イチジクオイルと乾燥させたチップを添えて。
アイスにすると甘さが前に出そうですが、こちらはイチジク特有の青っぽい香りまでしっかり残っています。
果実をそのまま齧った時のような瑞々しい香りが広がり、シンプルながらイチジクらしさがとても濃いデザートでした。
ヘーゼルナッツケーキ
最後は卵とバターを使って仕上げた、グルテンフリーのヘーゼルナッツケーキ。
コースの最後まで素材の香りを大切にするNazらしく、ヘーゼルナッツの香ばしさをしっかり楽しめます。
料理と同じくらい面白いノンアルコールペアリング
Nazでぜひ一緒に楽しんでほしいのが、料理に合わせたペアリング。
今回は松ぼっくり、赤松葉、発酵プルーン、木蓮など、一般的なレストランのドリンクではあまり見かけない素材が次々と登場しました。
単に料理と似た香りの飲み物を合わせるのではなく、酸味や渋味、燻香を足すことで、料理の味わいそのものを変化させていくような組み合わせです。
出てきた順に、8杯を並べておきます。
赤松葉と松ぼっくり
赤松葉を煮出したお茶に、赤松の松ぼっくりから作ったシロップを合わせたスパークリング。やさしい甘みとまろやかな酸味、森を思わせる香りが長く続きます。
赤ワイン、ザクロ、スパイス
アルコールを飛ばした赤ワインにザクロと複数のハーブ、スパイスを合わせた一杯。スパイシーな香りが長野パープルの甘みを引き締めてくれます。
杏、八角、紹興酒
杏と八角、アルコールを飛ばした紹興酒、馬葡萄のお茶。渋味と酸味がどんぐりと猪のラビオリの力強さとよく合います。
発酵プルーン、赤紫蘇、薔薇、ダージリン
甘酸っぱさの中に薔薇の華やかな香り。後半にはダージリンの穏やかな風味が広がります。
ビーツ、ラズベリー、カカオ、エスプレッソ
発酵ラズベリーにカカオとエスプレッソ。ビーツの土っぽい香りと同じところを狙っていて、料理にもう一つソースを足したように感じます。
ル レクチェ、蕎麦茶、クミン
洋梨の香りに蕎麦茶とクミン。独特の酸味と渋味が、おやきに使われた牛蒡の香りを長く引き延ばします。
桑の実、ラプサンスーチョン、熟成バルサミコ
フルーティーな酸味と燻香が、めぐみ鴨の炭火の香りと好相性。
木蓮発酵茶
木蓮の枝と葉を発酵させて煮出したお茶。フローラルで清々しい香りが、棒鮨を食べた後の脂や胡麻の余韻をすっと整えてくれました。
料理にドリンクを「合わせる」というより、飲むことで一皿が完成していくようなペアリング。
Nazを訪れるなら、料理と一緒に体験してほしいと思います。
お店情報
| 店名 | レストラン ナズ(Restaurant Naz) |
| ジャンル | イノベーティブ |
| 住所 | 長野県北佐久郡軽井沢町追分138-1 |
| アクセス | しなの鉄道「信濃追分」駅から約2.2km/軽井沢駅から車で20分ほど |
| 電話 | 0267-46-8840 |
| 営業時間 | ランチ/ディナー(18:00〜)の2回転 |
| 定休日 | 水曜・木曜 |
| 席数 | 6〜8名用と2〜4名用の2部屋(1日2組の完全予約制) |
| 予算の目安 | 季節のおまかせ 64,900円(税込・ペアリング9杯前後を含む) |
| 予約 | 完全予約制 |
| 支払い | カード可(VISA・Master・AMEX)/電子マネー・QRコード決済は不可 |
| 駐車場 | あり |
| オープン | 2025年6月1日(移転) |
行く前に知っておきたいこと
- 予約は2027年末まで埋まっています(2026年8月時点の店側の案内)。キャンセル席は「食オク」で案内されるとのことなので、狙うならそちらを見ておくのが現実的です
- 1日2組の完全予約制。部屋は6〜8名用と2〜4名用の2室で、ほかのお客さんと同席することはありません
- 料金64,900円にペアリング9杯前後が含まれます。追加で頼まなければ、これ以上はかかりません
- ノンアルコールのペアリングが選べます。車で行く方も、飲まない方も、料理と一緒に組み立てられた飲みものを楽しめます
- 支払いはカードのみ(VISA・Master・AMEX)。電子マネーとQRコード決済は使えません
- 最寄りの信濃追分駅からは2kmほど。駐車場があるので、車か軽井沢駅からタクシーが現実的です(軽井沢駅からは車で20分ほど)
- 水曜・木曜が定休。ランチとディナーの2回転で営業しています
Restaurant Naz まとめ
発酵料理、イノベーティブ、地産地消。
Restaurant Nazを表現する言葉はいくつもありますが、実際にコースをいただくと、そのどれか一つだけでは表せないお店だと感じます。
特に印象に残ったのは、香りの組み合わせ。
香茸と牛蒡、葡萄とクローブ、どんぐりとポルチーニ、ビーツと胡桃、鴨と山葡萄。
一見すると意外な食材同士でも、口に入れると「だからこの組み合わせなのか」と納得できるものばかり。
そして発酵や熟成も奇をてらうためではなく、酸味を加えたり香りを深めたり、食材同士をつなぐために使われています。
信州の食材や風土を大切にしながら、それをそのまま郷土料理として表現するのではなく、鈴木シェフならではの料理へと作り変えていく。
遠くまで足を運んででも食べてみたいと思わせてくれる、軽井沢を代表するレストランの一つです。