南青山にあるモダンフレンチレストラン「mærge(マージ)」。
6年連続で一つ星を獲得した白金「La Clairière(ラ・クレリエール)」の柴田秀之シェフが、2025年6月にオープンしたレストランです。
店名は、フランス語で余白や額縁を意味する「marge」と、英語で融合を意味する「merge」を重ねたもの。
「まだ名のない素材にも額縁をかける」という考えのもと、日本各地の生産者から届く食材をフランス料理の技術で表現しています。
柴田シェフは北海道留辺蘂の出身。1999年に恵比寿「レストランモナリザ」で修業を始め、2006年に渡仏。
帰国後はモナリザ丸の内・恵比寿本店で料理長を務め、2016年に白金でラ・クレリエールを開いています。
コースには荒間鶏や新岩のり、山菜、天草の河豚、干し香茸、千葉県の網どり尾長鴨、大和橘など、日本の冬を感じる素材が並びます。
一方で、ブーダンノワールやブールブラン、サバイヨンといったフランス料理らしい要素も随所に。
和と仏を単純に組み合わせるのではなく、その間を行き来するような構成が印象的でした。
今回はノンアルコールペアリングとともにいただきました。
緑茶、東方美人、枇杷の葉、阿波晩茶、コンブチャなどを使い、料理の香りや余韻に寄り添わせる内容。
ワインをそのまま模倣するのではなく、茶葉や発酵、焙煎によって一杯ごとに異なる表情がつくられています。
mærge 冬のおまかせコース
荒間鶏、筍
コースの始まりは、荒間鶏と筍を使った小さな料理から。
荒間鶏は、産卵を終えた鶏を食材として生かしたもの。若鶏とは異なる力強い旨味を、食べやすいひと口の料理に仕立てています。
筍は、割ると中から温かなスープが現れる遊び心のある構成。
冬の終わりから春へ向かう季節を、香りと温度で先取りするような一品でした。
鱈、ブーダンノワール
続いては鱈とブーダンノワール。
穏やかな味わいの鱈に対し、ブーダンノワールからは鉄分を思わせる深いコク。
軽さと濃さの異なる小さな料理が並び、短い中にもはっきりとした強弱があります。
アミューズの段階から、温度や食感まで細かくつくり込まれていました。
キャレ・ド・ブール
「キャレ・ド・ブール」は、四角く焼き上げたバター香るブリオッシュに、好みの食材を合わせていただくmærgeを象徴する料理のひとつ。
今回は生ハム、キャビア、紫玉ねぎマリネ、リコッタチーズ、ハーブを選びました。他にリエットもありましたが、あまり好きではないのでパス。
温かな生地にキャビアをのせると、ほどよく脂がなじみ、塩気と旨味がバターの香りに重なります。
キャビアの存在感はありながら、ブリオッシュの甘みも埋もれません。
ワゴンから食材を選び、目の前で仕上げてもらう時間まで含めて楽しめる一品です。
冽海、新岩のり
「冽海」と題された、冬の海を表現した料理。
まずは、新岩のりと昆布の旨味を抽出した温かなスープから。
淡い色合いとは対照的に青海苔の香りがしっかりと立ち、口に含むと磯の風味が広がります。
もうひとつの器には、岩のりのジュレと障泥烏賊、独活、林檎。
ねっとりと甘い障泥烏賊に、独活の歯切れとほのかな苦味、林檎のみずみずしさが加わります。
同じ海苔の旨味を温かなスープと冷たいジュレで味わうことで、香り方や余韻の違いまで感じられました。
ミルクパン
料理の合間には、やわらかなミルクパンを。
小ぶりで口当たりが軽く、穏やかな甘みがあります。
籠には数種類のパンが入っていました。
山菜のリゾット
山菜のリゾットには、長時間ゆっくり火を入れた蝦夷鮑を合わせて。
鮑はやわらかさの中に心地よい弾力があり、噛むほどに旨味が広がります。
リゾットには鮑の風味がなじみ、山菜の青さやほろ苦さが冬の濃い味わいに軽さを添えていました。
ブールブランソースのまろやかなコクに酸味が利き、クリーミーでありながら後味は重くなりません。
日本の山菜と鮑を使いつつ、味の組み立てにはフランス料理らしさを感じる一皿です。
天草河豚、白子、黒トリュフ
天草の河豚は、揚げたての唐揚げで。目の前で炭火で焼き直してからの提供です。
仕立てはシンプルですが、噛むほどに河豚の淡い旨味が広がります。揚げた衣の香ばしさがありながら、身の印象はあくまで上品でした。
白子は炭火で焼き、黒トリュフとともに。
薄い膜の中はとろりとなめらかで、白子の濃厚さに黒トリュフの香りが重なります。そこへソースの酸味が入り、脂の余韻をきれいに整えていました。
河豚の身は簡潔に、白子はフランス料理のソースとともに。
ひとつの食材を異なる角度から味わえる構成です。
パテ・ド・カンパーニュ、あおさパン
コースの途中には、パテ・ド・カンパーニュとあおさを使ったパンも登場。
パテの肉らしい旨味と脂を、あおさの香りがほどよく軽く見せます。フランス料理の定番に日本の海藻を合わせた、mærgeらしい組み合わせでした。
ボタン海老のイヴレス
「イヴレス」は、フランス語で酔いを意味する言葉。
中華料理の酔っ払い海老を思わせる一品ですが、紹興酒ではなくシェリー酒やヴァン・ジョーヌなどを使って仕立てています。
ボタン海老はねっとりとした舌触りで、甘みも濃厚。卵黄や島原素麺と合わせることで、口当たりに一層のまとまりが生まれます。
海老のコンソメにはトマトの酸味やレモングラスの香りもあり、甲殻類の旨味だけに寄りかからない軽やかな仕上がり。
中華料理を思わせながら、食べ進めるほどフレンチのソース料理としての奥行きが感じられました。
鰆と干し香茸
鰆に、香りを凝縮させた干し香茸とフォアグラを合わせた魚料理。
ふっくらとした鰆にフォアグラの脂とコクが重なり、魚料理とは思えないほど力強い印象です。
香茸のソースは、トリュフにも似た深く野性的な香り。
そこへトマトの酸味や根セロリのまろやかさが加わることで、濃いソースが鰆から浮くことなくなじんでいました。
金柑と柚子
肉料理の前には、金柑と柚子を使ったグラニテ。
細かな氷がすっと溶け、柑橘の香りと酸味が口の中を切り替えます。
香りは明るいものの甘さは控えめで、それまでに重なったフォアグラや茸の余韻を軽くしてくれました。
千葉県産 網どり尾長鴨のロースト
メインに選んだのは、千葉県産の網どり尾長鴨のロースト。
香ばしく焼かれた皮の下には、しっとりとした赤身。野性味はありながら香りが強すぎず、噛むほどに鉄分を思わせる濃い旨味が広がります。脂にも重たさがなく、鴨そのものの味わいがまっすぐに伝わってきました。
肉料理には、あらためて別のパンが添えられます。
ソースを残さず拭えるようにという配慮で、コースの流れの中でパンが替わっていくのも面白いところ。
自由に和と仏を行き来してきたコースの最後に、火入れとソースで魅せるクラシックな肉料理。
冬の食材を重ねた流れに、落ち着いた重みを与えていました。
温州蜜柑と大和橘のサバイヨン
デセールは、温州蜜柑と大和橘のサバイヨンから。
温州蜜柑のやわらかな甘みと、大和橘のきりっとした香り。そこへサバイヨンのなめらかな口当たりが重なります。
別添えで、グラニテのようなものも。
柑橘の皮を器にして、細かな氷が詰められています。サバイヨンの合間に挟むと、口の中がすっと軽くなりました。
柑橘の酸味が中心にあるため、クリームのコクがありながらも軽やか。
冬らしさと春を待つような明るさを併せ持つデセールでした。
黒種 ~180℃、12分~
続くデセールは、「黒種 ~180℃、12分~」という温度と時間をそのまま題名にした一皿。
料理名からすべてを説明せず、どのような姿で現れるのかを待つ時間も含めた構成です。
木に吊るされたデセールを取り、お皿に盛り付ける演出も。(が、意図がよく分からなかった。笑)
同時にもうひとつの器も出てきて、二つを行き来しながらいただきます。
旅茶碗
食後のお茶は、用意された「旅茶碗」の中から好みの一碗を選びます。
作家や焼き方によって表情の異なる器を実際に手に取り、その日の一碗を選ぶ趣向。
料理が終わったあとも、器を眺め、触れる時間までmærgeのコースが続いていきます。
ベルガモットのギモーブ、ガトー・ピレネー
最後の小菓子には、ベルガモットのギモーブとガトー・ピレネー。
ギモーブはやわらかな口溶けとともに、ベルガモットの華やかな香りが広がります。
ガトー・ピレネーは、層を重ねて焼くフランス・ピレネー地方の伝統菓子。外側の香ばしさと生地の密度があり、小さなひと切れでも満足感があります。
香りの軽いギモーブと、焼き菓子らしい余韻のガトー・ピレネー。長いコースを静かに締めくくる組み合わせでした。
茶葉と発酵を重ねたノンアルコールペアリング
今回、料理と同じくらい印象に残ったのがノンアルコールペアリングです。
コンブチャは自家製で、仕込んでいる瓶を見せてもらいました。ラベルには中身が手書きされています。
緑茶に柚子皮と炒った米の香りを重ねた一杯は、穏やかな渋みの中に香ばしさがあり、料理の余韻をすっきりと整えます。
林檎、サフラン、東方美人を合わせた一杯は、果実の甘酸っぱさに茶葉の華やかな香り。サフランが奥行きをつくり、香りが一方向に偏りません。
枇杷の葉と橘のお茶は、落ち着いた香ばしさの中に柑橘の輪郭を感じる仕上がりでした。
だんこうばいのコンブチャと阿波晩茶を使った一杯は、発酵による酸味と複雑な香りがあり、オレンジワインを思わせる印象。
さらに、黒烏龍茶でつくったコンブチャには、コーヒー豆を数粒加えて香り付け。烏龍茶の焙煎香にコーヒーのほろ苦さが重なり、肉料理や濃いソースにも負けない力強さがあります。







甘いジュースを料理に合わせるのではなく、茶葉の渋み、発酵の酸、焙煎の苦味を組み立てているところが面白い。
お酒を飲まない日にも、ペアリングによって料理の印象が変わる楽しさをしっかり味わえました。
お店情報
| 店名 | mærge(マージ) |
| ジャンル | フレンチ |
| 住所 | 東京都港区南青山3-8-14 VORT南青山Ⅲ 1F |
| アクセス | 東京メトロ「表参道」駅から徒歩8分/「外苑前」駅から徒歩10分 |
| 電話 | 03-6910-5615 |
| 営業時間 | 月・火・木 18:00〜23:00/水・金・土 12:00〜15:00、18:00〜23:00 |
| 定休日 | 日曜(そのほか不定期休業あり) |
| 席数 | 30席(テーブル20席・個室6席) |
| 予算の目安 | menu seasonal 38,500円/menu plus 44,000円/menu selection signature 30,000円(いずれもサービス料10%別) |
| 予約 | 予約制(一休.comレストラン・TableCheckから) |
| 支払い | カード可(VISA・Master・JCB・AMEX・Diners・UnionPay) |
| 駐車場 | なし(近隣にコインパーキング) |
| オープン | 2025年6月20日 |
行く前に知っておきたいこと
- コースは3種類あります。menu seasonal 38,500円/menu plus 44,000円/menu selection signature 30,000円。いずれもサービス料10%が別途かかります
- ランチがあるのは水・金・土だけ。月・火・木はディナーのみで、日曜が定休です
- ノンアルコールペアリングが選べます。茶葉や発酵を使った組み立てなので、飲まない日でも料理の印象が変わります
- ワインの持ち込みができます(1本あたり16,500円)
- 個室があります(2名・4名・6名)。※2026年9月からは1室あたり10,000円の個室料金がかかります
- 表参道駅から徒歩8分、外苑前駅から徒歩10分。駐車場はないので、近隣のコインパーキングを使うことになります
- コース内容は季節で変わります。この日は冬の食材でしたが、訪れる時期によって構成が変わります
mærge まとめ
新岩のりと昆布のスープ、山菜のリゾット、天草河豚、干し香茸、千葉県の網どり尾長鴨、大和橘。
コースには日本の冬を感じる食材が多く使われていますが、味わいは和食へ寄り切ることなく、ソースや火入れによってフランス料理として組み立てられています。
特に印象的だったのは、ひとつの料理の中に複数の文化や香りを重ねながら、素材の輪郭を失わせないこと。
ボタン海老のイヴレスには中華料理の発想、鰆にはフォアグラと香茸、パテ・ド・カンパーニュにはあおさ。
組み合わせだけを見ると複雑ですが、味わうと無理がなく、コース全体にも一本の流れがあります。
ノンアルコールペアリングも、料理に添える飲み物というより、コースを構成するもうひとつの要素。
茶葉、果実、発酵、焙煎を使い分け、一皿ごとの香りを広げていました。
フランス料理の確かな土台がありながら、表現は自由。店名に込められた「余白」と「融合」が、料理にもペアリングにも表れた冬のコースでした。
予約方法やコース内容、営業日は変更される場合があるため、来店前に公式サイトや予約ページで最新情報をご確認ください。